序

○ 夫非を以、是を亂り、私我いつはりて、人のすなをなるをにくみ、下として上をおかし、臣として君をころし、そのほか國家をほろほし、天下をみたる、是古今多し、其事一々難尽く、其惡臣密にはかりことをまうけ、詔をなし、志を遂る事、子細有之。大槪其ときの國主之道くらく、家臣之政どうどうからさるゆへなり、如此之義治る世ニ御座無之。對馬守宗義成賊臣柳川重興か惡逆により、國家之法令をおかし、謀書をつくるよし、不實非法之詔をなすなり、根本其由來を尋ぬるに天正年中、祖父宗義調其士柳川下野調信か忠節を尽し懇切を拔つるを以、知行をあたへ家老ニ申付候。且又父宗義智之時亦加增申付候。

其後　家康公の時にいたつて、朝鮮ゟ和談をこひ兩國和睦信使來聘、日本之治世を仰なり時ニ、義智駿府ニをいて、義智事異國の守りをなし、西國之一方に罷居候。自今以後每歲の參勤御免被成候、三年ニ一度宛可致參府候。國家之仕置御聞可被成之由、御意在之而其上御加增被成下候。其後其時之御執權、本多上野介殿ゟ來候書狀之追而書ニ、御加增之內千石、柳川古豊前景直ニ被遣可然候哉與被仰下候ニ付而、其御書中之任御內意、千石遣之。其後景直の嫡子、調興に私妹を婚禮之義相定候。其後古豊前者對州ニ而相果申候。調興若年に候得共、景直忠切により懇に養育いたさせ、家老之筋目を繼せ置候。其後本多上野介殿江、我等申入候ハ、對州之儀者遠方ニ而御座候故、
公儀向之儀、諸事不案內ニ而、大切ニ奉存候而、調興義御手前之御小姓にも成共被召使被下候ハヽ、　　公儀之樣子等見習以來者、拙者家老ニも召仕候時分、万事相勤候之義、宜可有之與存候而、右願之通被　　仰付被下候樣ニ被申入、則駿府江差遣シ置候。

然處寬永四丁卯年、柳川調興數年之重恩を忘、君臣之儀を背候而、前後之所領貳千石共ニ、從　　公義其身ニ當拝領仕候之由、異議を申立候ニ付、非法千万之段、委細御執權土井大炊頭利勝江申達候處ニ、我等申分最被思食、松平右衛門太輔·伊丹播磨守殿·本光國師(南禪寺崇傳長老也) 被　仰談候處ニ、何茂被仰付ハ、此段御迷惑之程致推察候而之義ニ而、花房右馬助殿·堀二部小輔殿·瀧善貞を以、此方江被仰聞候者、豊前知行押領申立候。非道之段、可申樣無御座候。

就夫右之趣豊前義申聞候處、彼者申候ハ、右之誤申立候段後悔千万、只今可仕樣無御座候。前々之罪科御免被成、以前之ことく、役目等をも被仰付被下候はゝ、偏ニ御慈悲と奉存、自今以後者、臣之道を尽、隨分御奉公可申上候。若此後右之趣相背候者、是非を論せず、非義ニ可被　仰付之旨、申之由何茂被申聞に付、以前のことく諸事申付候。

寬永八年辛未二月十日、古川右馬助智次·平田將監成幸を以て申聞候者、祖父以來之所領、及び朝鮮之送使等、皆之返進可仕と、去六日ゟ此段申候付、此方思案仕候ハ、縱其申分右之通候共、其分ニ而者相濟申間舗と存候。若豊前心入非義ニ候旨、押而仕置仕候ハヽ、世間之取沙汰ニ茂、手前ニ無調法在之故、無理ニ達而、右之段申付候と、批判茂可有之候。殊豊前茂却而無理を申付候と存、彌可挾野心候。又豊前と一味同心之輩、樣々邪法之儀申立、　　公儀ニ訴訟申上　　　公儀ゟ右之知行返し被下候樣ニ仕、家中之もの共ニ茂無禮仕、主人をもないかしろにせんと存ずる本意ニ而可有之候。依之大事出來可仕と存、兼而しきりニ　　東武へ委曲申上候。夫ゟ豊前異儀を企、此方非法之由、諸方江樣々申込候故、何茂尤之樣ニ御聞入レ、世間無理成風說在之て、豊前理運之樣ニ思食、一兩年理非之御決斷及延引候。

雖然兎角不相濟候而不叶事ニ候故、寬永十二乙亥年
大猷院樣御代ニ至而、達　上聞理非分明ニ被聞召分、豊前竝此儀相與する輩科之輕重ニ隨而、或死罪或流罪被　仰付、拙者無誤通相知、朝鮮之役義竝領地不相替被仰付候。是偏ニ明君賢臣之御政道故如此候。
當御代幾久萬々歲と奉仰候。