○ 柳川豊前送使船之印竝衣冠、以酊庵·流芳院之印、朝鮮江送返シ候使者、唐坊佐左衛門致歸國置樣、江戶表江差登、右之段御老中江御案內申上候ニ付、此外御尋も候はゝ申上候樣ニ、と口上書仕相渡ス。則左ニ記之。

一 (十九) 對馬守書翰之文體、先例に少々相替候所ハ、無別儀請候樣子、對馬守如何樣之申渡にて相濟候と、自然被成御尋候ハヽ
一 (右同) 從朝鮮日本上樣之御事、今度之書翰に大君と被遊候ハ、御名にて候哉、御位にて候哉。前之不承被遊やうにて候と申候時、
　　大君樣之儀、御聞候ハぬ由候、前かどの儀、いかやうとも拙子不存候。從朝鮮は日本之御樣子、委御存知有間敷候。日本上樣を大君と、對馬守書載候ハヽ、其通りに可有御心得候。對馬守儀もんまうニ御座候とても書翰被認候出家衆、左樣之段書違たる儀ニ而無之候。其上如御存知、貴國之とりあつかいニ付、柳川豊前中途ニ而對馬守不存樣ニ、私シ儀多仕候ニ付、書翰之役之衆、又は郞從衆をも、今度ハ對馬守別而入念儀ニ候得は、少もうたかハしきやうの儀無之候。

一 (右同) 此頃は前々に違、書簡に年號不被遊候儀、是も如何と申候。
　　前々年號書付之儀、對馬守存候ハ、加樣之儀、彌前々無調法被仕樣と申候。惣而日本ハ唐江同心なき國ニ而候。日本ニ茂天子御座候而、官位茂唐と名前·年號も其通りに候得者、異國之年號書付る儀ニ而無之候。たとい朝鮮と對馬守通用不申候とても、日本之道に違たる儀有ましき由申候。

一 (右同) 足下不宣、是先例に相違之樣ニ申候。
　　先例ハいかやうにも候へ、是も對馬守存候ハ、前々書付やう無調法と存候。右申候年號之吟味も、同前ニ候。禮曹對馬守と一々異國之官位與高下之吟味、有之間敷事ニ候。從貴國書簡之趣、愍懃ニ結構ニ候ハヽ、對馬守も心持可有之候。萬事は貴國之御見合入事ニ候。

右之通申候處、無異儀致合点、今度之返簡入含申候。馬藝之者罷渡候刻、於江戶對馬守·同知·判事江萬事朝鮮之御心得、無調法之段、樣々申聞セ、諸事に朝鮮とかくとも、不申候樣に申置候付、其段朝鮮都ニ而同知·判事具ニ申達候由ニ候。殊朝鮮表江何事とは不存、豊前私ニ申渡仕懸候得共、多々御座候由ニ候。左樣之儀ニ付、從朝鮮も豊前萬事對馬守ニは不申聞、數年諸事私ニ相はたらい候と存知居候由ニ御座候。右之通り之心得にて御座候ゆへ、前々之儀、只今對馬守惡敷與存候所改候ニも、朝鮮いなとも不申同體と承及候。

一 (右同) 騎藝之者歸國之刻、從江戶 對馬守返翰差下候處、同知·判事何かと申たるやうに御聞召上られ候が、其段如何と被成御尋ニ候ハヽ
　　同知·判事申候も、返翰之文言前々ニ相違之儀を、申たるニ而御座候。兩人左樣に申候も、使者のふしやう爲念ニ少々申たるニ而御座候、其段替儀無御座候。只今ハ無別儀候樣ニ御座候。殊朝鮮都江、同知·判事參候而、日本之御威光、萬事御明白之御治之樣子、旁以能申達候故、朝鮮も致安堵體ニ御座候。

一 (右同) 前々度々渡り候信使衆、又は判事なとに、朝鮮にて今度何とそ被相尋事共候やと自然御尋候ハヽ
　　惣而朝鮮人口通し候者、多無御座候。其上今程之儀、別而日本を御たいせつに存候故、何やうの儀もうかうかと取沙汰不仕候ゆへ、何之沙汰も無御座候。其上我等儀釜山浦、わづかの逗留、又は都程遠く候故、釜山浦下々之沙汰無御座候。倂崔判事ハ今度之てふいくわんに付候而下候事。
一 (右同) 都てふいくわん下り候ハ、佐左衛門爲馳走如此候事。

一 (右同) 豊前·方長老抔儀ハ、如何申候哉と被成御尋候ハヽ
　　右之出入之樣子、騎藝之者竝同知·判事委見聞候故、別に相尋候儀も無御座候。唯咄ニ申候ハ、天下ニ而主人に敵をなし、親に不孝成者、よき事ハ無之候。對馬守郞從柳川と有之儀ハ、異國迄も存たる儀ニ候。主人をはたし可申被存、剩虛言を申かけ候。豊前如此罷成候儀、尤と申候。次ニ方長老儀、豊前江御同意候へハ、是も道ニ違たる儀と咄申候。

一 (右同) 佐左衛門朝鮮江渡海候時ハ、例之送使船ニ而渡候哉與、御尋被成候ハヽ
　　去年馬藝之者罷渡候刻、對馬例之送使船、釜山浦ニ有合候ニ乘渡候。其使釜山浦に永々罷立候間、其船に我等乘候而、使之者同前ニ罷渡候。何も今度之往來之次第、對馬守參上候之節、委可申上候由申聞セ候。

一 (右同) 去年、從御老中御狀被下、朝鮮江之書翰之儀、今度一往ハ、まづ對馬守相計候樣ニと被仰下候故、得其旨、任御意候處、今度之返簡、何之さゝわりも無之候間、此旨言上候而、以後信使之儀、申渡候所本義ニ候得共、夫を傳居候得ハ、信使之儀、相延候間、早速申渡候。
一 (右同) 信使之儀申渡候使之事、若御尋被成候ハヽ、順風次第可致渡海候。

一 (右同) 右之使ハ何與申者そ、船ハ送使船かと、若御尋候ハヽ、多田源右衛門と申者、飛船ニ而相渡候由、可申上候事。
一 (右同) 日光御社參之時分之事、朝鮮ニ信使之儀申遣し、都江注進候ハヽ、跡々の往來廿五六日もかゝり可申哉。又ハ都ニ而いかほと日數をとり、可申義も難知候。何も三月の末ニ返事參候にても、卯月十七日之御社參候ハ、江戶ニ御參上成間敷候日算用之事。

一 (右同) 朝鮮信使罷渡之刻、對馬守不居合ニ而も不苦事ニ候哉と、自然御尋も候ハヽ、其刻罷居候ハてハ、如何成間敷由、可申上候事。
一 (右同) 今度從朝鮮爲信使渡候者ハ、如何樣之者か、高官之者かなとゝ御たたかい被成御尋と候ハヽ、誰之渡り候共、聢と不存儀ニ御座候、倂口上も通し、万事對馬守江直ニ申達候故、同知·判事渡り可申哉と粗承候。

一 (右同) 從朝鮮之使者乘渡候船ハ、何船そと御尋候ハヽ、有體ニ朝鮮船ニ而渡候由可申上事。
一 (右同) 豊前送使之所勢、如何程之事。
一 (右同) 豊前前々召仕候者、江戶表江いかやうの儀を申越候事共候ハヽ、聞立急度此方江可申下事。以上。

△ 柳川調興公事記錄下終