一. 見聞書留仕候趣ニ而申上候而者, 次第亂雜仕候ニ付, 去ル丑年 〈案するに, こは明和六年をいふなるへし〉 願書之箇條ニ引合せ, 左ニ奉申上候.

朱書
　對州者一軆山國ニ而海中之小島故, 土地甚少く, 田地者一向無御座候畠計之所ニ而, 畠も多くハ山畠ニ而候故, 出來方薄く, 凶年勝ニ有之. 其上鹿荒强く, 年々鹿狩仕候ニ付, 百姓共勞費不輕候.
　　對州百二拾ヶ村餘之分, 大槪海邊濱付ニ而, 海を離れ候村方僅拾ヶ村餘に御座候. 國中に平地無之, 惣島廻荒磯ニ而, 淺海与申, 瀨戶入海ニ而御座候. 谷々山々とも悉く雜木茂り, 楠・いす・櫻・松・椵・樫・椎・杉・椿・楸・椚・槻・桂・胡桃・栗・漆・梨・柹等生立大木も無之, 柴山小木多御座候.
　　材木者尺板以下之品, 薪類者府中又者他國へも賣出候由. 先年炭燒薪伐出, 茯苓取なと他國より入こみ請負候處, 仕當ニ合不申, 何れも中途ニ而相止候由. 田畑之耕地, 海邊入込候谷々少し充, 一村限之平地ニ而定作二毛取之畑ニ而, 麥作取候跡へ粟・稗・大小豆・大角豆・麻・木綿・胡麻・土芋・唐芋等作申候. 別而唐芋ハ近年作覺, 風難無之品故, 多分に作り粮食ニ仕候. 田方之儀, 田地無之由ニ候得共, 多分田作不仕村方も無御座, 尤皆畑之村も御座候得共, 數少く御座候. 佐護鄕・佐須鄕・豆酸鄕者, 山も寬に山上迄畑地有之, 耕地も廣く田方多分有之, 外國々之作方ニ似寄候場所ニ御座候. 全軆取箇之儀, 二百年以前之仕法之由ニ而, 石免合与申儀無御座, 村高何間
　　何尺何寸与仕, 蒔何石何斗之位附, 上中下田畑とも上畑廻し物成を附, 麥納に仕, 村方ニ而寬文年中相定候物成帳一覽仕候處, 田方・茶共に麥之物成ニ廻し有之候. 其外村方に寄, 籾ニ而納め, 又者麥相場代銀ニ而納め候も有之候. 全體村々物成ニ引競へ, 田之耕地廣く御座候付, 承糺候處, 在々給人府中諸侍・町人等入用を出し, しめ切新開等仕候類ニ御座候. 知行有之者者, 新開之分年貢銀与申を相納め候由, 百姓町人之取立候ハ, 定之通物成相納候由御座候.
下ケ札
　本文炭燒仕入候儀, 京都ニ而朝鮮干牛丸商賣仕候三栖屋彌太郞と申者, 質屋ニ而有之候處, 銀調達通銀滯多
　候ニ付, 右代り山を取, 伏見に罷在候忰茨木屋長右衛門儀材木商賣仕候者, 對州江相越, 炭燒一軒仕入候處, 仕當ニ合不申候旨, 相止候よし御座候.
　田方凡反別貳百六拾町步程　〈村方申口, 古田物成帳ニ有之分, 幷新開・侍知行・給人知 行・寺社領等町步見積り〉
　內
　三百壹石六斗餘　
　〈前々より秋石与唱, 物成帳ニ有之田方等入ハ銀納, 百姓方より相納候分〉
　取箇之儀, 交易方繁昌之節, 山方・里方共に收納ニ不心附, 仕來之儘差置候癖不相直, 畑方定作仕候分ハ平地ニ而, 田成可仕場所多御座候. 何れも村居之近邊川筋有之, 用水揚方自由成場所之分をも畠作仕候. 山畑之分者, 木庭与唱別段ニ而, 野畑・刈畑之類切替作ニ御座候.