一. 此一件去々年之季冬橋邊伊右被㆑來候而被㆑語始而承り, 伊右之語未だ止ざる時, 是は珍敷儀起り大切之御事候. 竹島は日本之地か, 朝鮮之地かと申事を能く御極被㆑遊候而, 朝鮮へ可㆑被㆓仰渡㆒御事に御座候と申候. 如㆑斯申候は, 以前より何事も始を御愼みなく, 輕易に被㆓仰掛㆒御難儀被㆑遊候事多く候故申たる事に候. 又去年之初夏爲心どの雨森氏之說を被㆑語候時, 夫は末にて御座候. 初江戶より朝鮮へ被㆓申渡㆒候得と被㆓仰出㆒候時, 竹島之事歷を公儀へ知れ居候趣を御問合被㆑遊, 御國へ知居候趣も被㆓仰上㆒
具に御極被㆑成, 後々之變迄御下知を御受被㆑成候而被㆓仰渡㆒候はゞ, 朝鮮より難澁被㆑仕間敷候. 若し及㆓難澁㆒候はゞ, 其趣を公儀へ被㆓仰上㆒, 又御下知次第被㆓仰渡㆒候はゞ, 殿樣御恐被㆑遊候程之御難有間敷候.
一. 十三通之御書付を見申候而も, 昔年竹島日本に屬し候故實, 又今度之初發より今迄江戶公儀へ被㆓仰上置㆒候樣子, 又此節貴樣江戶にて御執政方へ可㆑被㆓仰上㆒と思召候趣も, 未だ相知れ不㆑申候. 其外之書狀曲折承度事多く御座候.
一. 御問答三通之御書附を致㆓拜見㆒, 精敷は通じ不㆑申候得共, 此方より被㆓仰掛㆒候趣にも, 彼方よりの返答にも, 私ならば如㆑此は申掛間敷, 如㆑是は答間敷と奉㆑存候所, 各少しヅヽ御座候得共, 別而不㆑宜とは存不㆑申候. 其中此方より被㆓仰掛㆒之御書付に, 江戶を以て彼方を御威し被㆑成候樣なる辭意强く見へ候所有㆑之, 彼方之所思如何と奉㆑存候.
一. 爭論は何事に寄らず, 爭ふ所之事狀に是非・眞僞有㆑之, 爭ふ人品に智愚・曲直有て, 是を判斷する人有㆑之, 其是非・眞僞・智愚・曲直を正し, 勝負を定め, 愚者是を以て負, 智者非を以て勝申事も有㆑之事に候. 此御書翰・御問答之御書付を見候に, 證據見へ不㆑申候. 然るを漂民を被㆓送還㆒候時之書翰文を只今何角と被㆑仰候樣聞へ申候. 若し爭勝に成り, 日本に屬候樣極り候へば, 三度之書翰に謬有を以て言勝被㆑成, 御取被㆑成たると申物にて可㆑有㆑之, 彼方より八十年前蔚陵島日本に附候證文を御出し候得と被㆑申候はゞ, 證文に成り候もの可㆑有㆑之哉.
三度之書翰は漂民送り之書翰にてこそ候へ, 證文には成間敷候. 誠に彼方之答之書付に藤かづらのやうにと被㆑書候事, 實にもと奉㆑存候. 今爭論を中華より判斷被㆑成候はば, 何として日本に御附可㆑有㆑之哉. 尤も此方より何程論辯を被㆑設候とも, 朝鮮より日本に附け候はんとは随ひ被㆑申間敷と奉㆑存候.