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日本の明治産業遺産

歪曲される現場と隠蔽された真実


1-2-1 歴史全体を理解できるようにせよ

ユネスコの世界遺産に登録されたということは、その遺産が「顕著な普遍的価値」を持った人類共同の遺産として認められたということを意味します。特定の国家や国民の専有物ではなく、すべての人類が大切に守らなくてはならない遺産、次世代まできちんと引き継いでいくべき遺産として特別に指定されたということです。
第39回ユネスコ世界遺産委員会は、日本の産業遺産が世界遺産に登録された際、各サイトの「歴史全体」について理解できる「説明戦略」を立てるよう特別に勧告しました。その勧告の脚注には説明戦略と関連して日本の声明が注目されると記されています。日本の声明とは、日本政府の代表である佐藤地(さとうくに、当時はユネスコ日本大使)の発言のことです。日本大使は、朝鮮人とその他の国民(Koreans and others)が、本人の意思に反して動員され(brought against their will)、厳しい条件の下で(under harsh conditions)、労働を強いられた(forced to work)事実について理解できる措置を講じる所存である、と発言しました。この発言は国際社会に対する日本政府の約束と言えます。
第39回ユネスコ世界遺産委員会、ドイツのボン1(民族問題研究所提供)
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第39回ユネスコ世界遺産委員会、ドイツのボン2(民族問題研究所提供)
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会議場内の画面に映された勧告事項(民族問題研究所提供)
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当時ユネスコ日本大使であった佐藤地の声明文


[声明の原文]
Japan is prepared to take measures that allow an understanding that there were a large number of Koreans and others who were brought against their will and forced to work under harsh conditions in the 1940s at some of the sites, and that, during World War II, the Government of Japan also implemented its policy of requisition.

Japan is prepared to incorporate appropriate measures into the interpretive strategy to remember the victims such as the establishment of information center.


[日本政府の翻訳文]
日本は,1940年代にいくつかのサイトにおいて,その意思に反して連れて来られ,厳しい環境の下で働かされた多くの朝鮮半島出身者等がいたこと,また,第二次世界大戦中に日本政府としても徴用政策を実施していたことについて理解できるような措置を講じる所存である。
日本は,インフォメーションセンターの設置など,犠牲者を記憶にとどめるために適切な措置を説明戦略に盛り込む所存である。
 

佐藤地日本大使の発言に関する動画(出典:ユネスコ世界遺産センター)
Source: UNESCO World Heritage Centre


1-2-2 2017年「保全状況報告書」の内容

日本政府は、日本の産業遺産の登録後に世界遺産委員会の勧告をどのように履行しているのかを説明する2つの「保全状況報告書」を提出しました。
2017年11月に世界遺産委員会に提出した『明治日本の産業革命遺産保全状況報告書(State of Conservation Report)』には次のような問題点があります。
登録当時、日本政府の代表が使用していた「意思に反して動員され、労働を強いられた」という表現が「日本の産業を支えていた朝鮮半島出身者」となっています。
東京に産業遺産情報センターを設立するという計画も含まれています。しかし、情報センターを設立する趣旨が「犠牲者を記憶にとどめるための措置」から「産業遺産の保全の普及、啓蒙に貢献するシンクタンク」に変わっています。

2015年、登録当時の日本代表の発言2017年、日本が提出した「保全状況報告書」
1940年代、数多くの朝鮮人などが、本人の意思に反して動員され、厳しい条件の下で労働を強いられた戦前・戦中・戦後に多くの朝鮮半島出身者が日本の産業の現場を支えていた
インフォメーションセンターの設置など犠牲者を記憶にとどめるために適切な措置を説明戦略に盛り込む産業遺産の保全の普及、啓蒙に貢献するシンクタンクとして東京に情報センターを設置する計画
出典:「日本近代産業施設(the Sites of the Japan's Meiji Industrial Revolution)世界遺産登録後続措置の経過」(韓国外交部報道資料、2020.6.15)

世界遺産委員会は、日本政府が2017年に提出した報告書を検討した後、2015年の決議を完全に履行するよう日本政府に更に要請しました。また世界遺産委員会は、「関係者(concerned parties)との対話」を促し、歴史全体の説明に関する国際的な模範事例を考慮に入れるよう強く勧告しました。

1-2-3 2019年「保全状況報告書」の内容

日本政府は2019年12月にも「保全状況報告書」を提出しました。しかし、この報告書にも2015年の登録の際に日本が約束した後続措置の履行内容は含まれていませんでした。
世界遺産委員会が勧告した関係者との対話については自国内に限定して重要な関係国である韓国を排除しました。

第42回世界遺産委員会の決議2019年、日本が提出した「保全状況報告書」
遺産の前後の期間も含め、歴史全体のインタープリテーションに関する国際的な模範事例を考慮に入れるよう強く促すインタープリテーション戦略は2017年に提出した報告書に付属資料として添付しており、インタープリテーション全体については「産業遺産情報センター」が完成され次第、報告する予定
関係者との対話を継続することを促す 効率的な保全管理のために日本の関係省庁、地方公共団体、資産所有者、管理者、地域コミュニティなど幅広い関係者と定期的に対話
第39回世界遺産委員会決議を完全に履行するよう要請第39回決議での各サイトの歴史全体を理解できるインタープリテーション戦略を立てる勧告については、2017年の報告書ですでに返答
出典:「日本近代産業施設(the Sites of the Japan's Meiji Industrial Revolution)世界遺産登録後続措置の経過」(韓国外交部報道資料、2020.6.15)


1-2-4 産業遺産情報センター、歴史否定の現場

2015年7月5日、世界遺産委員会で日本政府の代表は日本の産業遺産と関連し、「多くの朝鮮人とその他の国民が、本人の意思に反して動員され、厳しい条件の下で労働を強いられた」事実について理解できる措置を講じ、「犠牲者を記憶にとどめるための適切な措置」として情報センターを設置すると国際社会に約束しました。
しかし、日本政府はその直後に強制労働を否定しました。2016年からは「朝鮮人労働者を含む労働者に関する情報収集」を一般財団法人産業遺産国民会議に委託しました。しかし、この団体は強制労働を否定するための証言だけを収集しました。
産業遺産国民会議は日本政府と共に日本の産業遺産の世界遺産登録を推進してきた団体です。この団体は2017年12月には「軍艦島の真実、朝鮮人徴用工の検証」というウェブサイトを開設し、強制労働否定をさらにすすめました。日本政府はこのような団体に産業遺産情報センターの展示と運営を任せました。
日本政府は産業遺産情報センターを2020年3月、日本の産業遺産施設と遠く離れた東京に開館し、6月に一般公開しました。産業遺産情報センターでは産業遺産国民会議が集めた端島炭鉱の元島民たちの証言などが利用され、朝鮮人も「家族のように一緒に暮らした」、民族差別も強制労働もなかったという展示がされています。日本政府が産業遺産国民会議と共に強制労働の歴史を否定してきた活動の結果です。
八幡製鉄所、長崎造船所、三池炭鉱などで朝鮮人、中国人、連合軍捕虜などの強制労働の歴史があり、被害者が存在するという事実については全く説明していません。犠牲者を追悼する内容も同じくありません。日本政府が国際社会に公表した約束は依然と守られていません。

 
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