1.未だに終わらない歴史紛争
は事業遂行の初期に高句麗史を集中的に研究した。高句麗史を中国史であると強弁する内容が主流をなしていた。これにより「東北工程」は「中国の高句麗史歪曲」、「高句麗史収奪事業」などとして知られるようになった。そのうえ「東北工程」の内容がより具体的に知られるようになるにつれ、古朝鮮・渤海の歴史まで中国史に編入しようとしていることが明らかになった。さらには、朝鮮半島の情勢変化に備えた歴史的大義名分を用意するための中国の国家的戦略であることも明らかになった。
このような点から「東北工程」に対する全国民の関心と懸念が高まるや、政府も長期的な対応策をまとめ、中国政府に公式に問題提起を行った。2004年8月、韓中口頭了解事項の合意により、中国の高句麗史歪曲に対し是正を求めることのできる根拠が用意された。
ところが、韓中両国の合意にもかかわらず「東北工程」の結果物が発刊され、「東北工程」の論理が拡散していることが露見した。そのため2006年9月と10月、盧武鉉大統領が中国の温家宝総理と胡錦濤国家主席にこの問題を提起し、是正を求めた。中国の最高指導者は、口頭了解事項を尊重して履行すると回答した。そして2007年2月、5ヵ年計画で推進されていた「東北工程」が表面的には終了した。
韓中口頭了解事項
次の5つの項目に対して合意した。
① 中国政府は高句麗史問題が両国間の重大懸案問題として台頭していることを認識。
② 歴史問題による韓中友好協力関係の 悪化を防止し、全面的協力パートナー関係への発展に向けて努力。
③ 高句麗史問題の公正な解決を図り、必要な措置を講じて政治問題化することを防止。
④ 中国側は中央および地方政府レベルで高句麗史関連の記述に対する韓国側の関心に理解を示し、必要な措置を講じていくことで問題が複雑化することを防止。
⑤ 学術交流を速やかに開催して問題を解決。
しかし、中国最高指導層の口頭約束と5年間の「東北工程」研究事業が終了したからといってすべての問題が解決されたわけではない。歴史学では研究の成果が重要な資料として活用され、発刊された研究成果物は、その内容の妥当性の有無に関わらず相当期間存続して影響を与えるものだからである。
「東北工程」の研究成果は学術的な次元にとどまらず、高句麗・渤海遺跡の表示板や博物館の案内文、大学の教材、教養書などにまで収録されている。いまや「東北工程」は専門の学者にとどまらず、学生および一般の中国人らの常識を変えていく段階に至っている。
古朝鮮・高句麗・渤海の歴史を中国史であると思い込むことを広い意味での「東北工程」と表現するなら、「東北工程」は現在も依然として続いており、またいつ終わるかも 分からない状況にあるといえる。東アジアの歴史は遠い過去から互いにからみ合って展開してきており、今後もそうであるため、関連する国々は事実を基にした和解と協力の歴史を綴っていかねばならない。そのためにも我々は、歴史的事実について正確に知っていなくてはならない。そうしてこそ歴史の歪曲に対処し、自国の歴史を守り通すことができる。まさにそれが、我々が「東北工程」の目的と主な主張を分析して問題点を把握し、それに応じた対応策を講じなければならない理由である。