交際ノ目的
朝鮮ヲ何等ノ國ト見認ヤ否此レ臣等ノ豫リ議ス可キコトニ非スト雖トモ今度彼使員ヲ率ヒルノ議ニ付彼ヨリ論及シテ曰
一 我國體ハ內外ノ政事專斷獨裁タリ国テ貴國天皇ト我國王ト等對比權ノ交際ヲ欲スト
右ノ如ク論シ來ラハ我ヨリモ獨立國ト見認メ天皇親交ノ心得ヲ以テ應接ニ涉リ來使ヲ誘導スヘキヤ否
若シ又彼ヨリ曰
一 我國ハ西淸國ノ属タリ故ニ天皇ト對等ス可キニ非ス貴國相當ノ大臣ト我國王トヲ以テ尋盟ノ議ヲ修ムヘシト
右ヲ以テ論シ來ラハ彼ノ言ニ拠リ淸國ノ屬ト見傚シ其意向ニ隨カセテ來使ヲ率ユル心得ニテ可然ヤ否
右二條ハ卽獨立淸屬ノ分判然タルモノナリト雖トモ若シ彼レ例ノ黠策ヲ逞シテ曰
一 天皇ト國王トノ親交ハ我國議甚タ歸熟セサルモノアリ因テハ貴國太政官我議政府ノ兩大臣若シクハ外務卿ト禮曹判書トヲ以テ適主ト爲シ交際ヲ修ム可シト
右ヲ以テ論及シ來ラハ其不可ナルヲ弁明スルハ難キニ非スト雖トモ到底其條理ヲ明白ニ論破スルトキハ要スルニ獨立ト淸屬トノ分界ヲ擧論セサルヘカラス臣等素ヨリ之ヲ論定約議スルノ權ナケレハ肯テ駁弁ヲ用エルニ及ハスト雖トモ諄々說諭ニ涉ラントセハ必ラス廟議ノ如何ヲ伺定セサルヘカラス但シ此條ノ如キモ詮スル所ロ彼レカ意ヲ破ラス只管來使ヲ誘ヒ導リヲ以テ主眼トス可キヤ否

對應ノ順序
一 宗大丞究問ノ別簡ヲ投シ之ニ酬フル回翰ヲ出サシムルニ付テ萬々一彼レ之レヲ耻ルノ意ヨリ或ハ禮信ニ托シ或ハ枝議ニ移シ曖昧之ヲ免レントスルトモ我其理義ヲ推究シ到底其回翰ヲ得ヘキハ必期ノコトト雖トモ其之レヲ得サルノ間ハ外務卿ノ本書大丞ノ添簡共決テ遞與セサル可シ
若シ彼レ右回翰テ出サヽルニ我レ曖昧延滯ニ屬シ前議ヲ中止シ遽テヽ本書ヲ遞與セントスルカ如キハ彼レノ輕蔑ヲ招クノ一端ニシテ固ヨリ不可ナリ因テハ理情ノ歸スル所ロ果シテ七年間壅塞ノコトハ彼レヲシテ謝セシメサル可カラサルトノ廟決ナリヤ否

右陳上スル所若シ不明了ノ廉モ候ヘハ親シク御下問被成下速ニ御明敎奉仰候也

明治八年一月二十四日
外務少丞 森山茂
外務六等出仕 廣津弘信